健康コラム
健康に関する情報や知っておくと役に立つ情報等を医師の視点からお伝えします。
第31回

臓器の老化⑪

運動で目指す、臓器の健康

臓器の健康を守るために、「運動」は欠かせない存在だと考えています。以前は腎臓病の患者さんに積極的な運動を勧めることは少なく、「安静にすること」が基本とされてきました。しかし現在では、「腎臓リハビリ」という考え方が広く普及し、下半身強化を目的とした筋トレやウォーキングなどの適切な運動が腎臓病の進行を抑える重要な治療の一つとして認識されています。たとえ透析が目前に迫った患者さんであっても、運動によって腎機能そのものを回復させることは難しくても、透析を始める時期を遅らせる可能性があることが分かってきました。運動は体力や筋力を維持するだけではなく、生活の質の向上にもつながるため、今では透析医療においても重要なテーマとなっています。

患者の努力と医療の発展が、健康な人生を支える

また、腎機能は「体の老化度」を映し出す鏡のような存在だと考えています。腎臓の状態がそのまま寿命を決めるわけではありませんが、自分の体がどれほど老化しているのかを知るうえで信頼できる指標の一つです。だからこそ、日頃から腎臓の状態を意識し、運動や食事など生活習慣を整えることが、健康寿命を延ばすことにもつながるのです。日本では慢性腎臓病(CKD)の増加傾向が近年やや落ち着いてきました。その背景には、啓発活動による早期発見・早期治療の浸透に加え、糖尿病や高血圧の治療薬が進歩し、腎臓を保護する作用が高まったことも要因です。患者さんの努力と医療の発展が、より健康な人生を支える時代になってきていると感じています。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。