第15回

認知症とミトコンドリア②

有効な認知症対策は「運動」

認知症が発症するのは、脳内の神経細胞のミトコンドリア機能の低下が原因であることが知られています。前号で、有効な認知症対策は「運動」であるとお伝えしました。運動をすると、メタボリックシンドロームや高血圧、糖尿病の改善につながり、認知症になりにくい体質にもなります。また、最近の脳神経の研究から、“運動したくなる神経”が存在することも分かってきました。面白いことに、この神経は食べることを制御する神経のすぐ近くにあります。そのため、運動したくなる神経が興奮すると、食べたくなる神経の興奮を抑えられます。逆に食べてばかりいると運動したくなくなります。

“ちょいきつめ”の運動が「高効率ミトコンドリア」を作る

“ちょいきつめ”の運動が「高効率ミトコンドリア」を作る
それでは、なんとかして運動しなければいけないと考えますが、あまり車を使わない都会に住んでいる方々は、通勤や買い物の行き帰りなどで日常的な運動が行えていると思います。ただ、普段から車の移動が当たり前、もしくは高齢者で外に出ることが少ない方々であれば、週に3回以上、30分以上のウォーキングを目指しましょう。また、その上で推奨したいのが、週に1回は筋トレなどの“ちょいきつめ”の運動です。週末に草野球チームに参加するなどでも良いですが、ちょいきつめの運動をすることで、老化の原因となる活性酸素の発生を減らしつつ、エネルギーをたくさん産生する「高効率ミトコンドリア」が作られます。最初は小さい目標で構わないので、徐々に負荷を上げるなど、続けることを意識しましょう。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。