第9回

鶴は千年、亀は万年

体の大きさと寿命の相関関係が当てはまらない?

「鶴は千年、亀は万年」とよく言われます。本当に鶴や亀は長生きなのでしょうか?一般的に体が大きくなるほど動物の寿命は延びます。犬や猫の寿命は15~18年、象は50~60年生きます。しかし、それほど体が大きくない亀はどうかというと、ゾウガメは100~150年、カロライナハコガメは138年、アルダブラゾウガメは152年という記録があります。亀はべらぼうに長生きです。飼い始めると、下手をすると、私たちのほうが先に死なないといけないくらいです。それでは鶴はどうでしょうか?鶴は約25~30年、動物園で飼育すると50~80年も生きるそうです。鶴に限らず、鳥類は同じ体の大きさの他の種の動物に比べて長生きです。オウムでも20年ぐらい生きます。

鳥類が持つ「高効率ミトコンドリア」

それは何故でしょうか?鳥は飛ばないといけないからです。飛んでいる途中で、疲れて文字通り「羽を休めて」しまっては、堕ちてしまいます。常にたくさんのエネルギーを生み出さないといけないのです。そのため、鳥類のミトコンドリアは、たくさんATP(“生体のエネルギー通貨”と呼ばれる)をつくり出すことができる上に、酸素が上手く使えない時に発生する不完全燃焼物=活性酸素(正常な細胞にダメージを与える)の量も少ないのです。鳥型の「高効率ミトコンドリア」を持てば、私たちは活気に満ちた人生を楽しむことができるかもしれません。

慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。