第13回

ミトコンドリア健康長寿法④

「運動」がミトコンドリアを奮い立たせる

メタボリックシンドロームの患者さんを診察する際、私が「少し痩せたほうがいいですね」と言うと、「すみません。最近運動不足でして。少し動くようにします!」とオウム返しのように言われます。私は悲しくなります。食べる物を減らすことはまったく考えていらっしゃらない。もちろん運動することで少しは消費カロリーが増えますが、肥満になっている方では、圧倒的に摂取カロリーが多い状態なのです。

それでは、「運動」はあまり意味がないのでしょうか? そんなことはありません。何故なら「運動」は最も効率的にミトコンドリアを元気にするからです。ミトコンドリアは、酸素を使って糖や脂肪からエネルギーの源、ATPをつくっています。運動すると、筋肉ではたくさんのエネルギーが必要になります。それに伴い血液がたくさん必要となり、呼吸が速くなり、心拍数も上昇します。肺にも心臓にもエネルギーが必要になります。つまり、「運動」は様々な臓器にとって“酸素不足”の状態をつくっているのです。この臓器にとってちょっと“苦しい状態”が、ミトコンドリアを奮い立たせることになるのです。

糖や脂肪のだぶつきはミトコンドリアを甘やかす

男女がジョギングしているイメージ
空気がさわやかな秋は運動習慣に取り組みやすい。
肥満や糖尿病では、糖や脂肪がだぶついているので、かえってミトコンドリアはさぼってしまいます。あまり働かなくても、エネルギーをつくれる贅沢な状態は、ミトコンドリアを甘やかすこととなります。そのため、メタボの人ではミトコンドリアの機能が低下して、徐々に臓器の機能は悪くなり、老化が進んでしまいます。糖尿病の人はそうでない人に比べて体内年齢が平均10年、歳を取っているということが知られています。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。