第12回

ミトコンドリア健康長寿法③

超高齢化社会の脅威となる「フレイル」

年を取ると筋肉のミトコンドリアが弱ってきて、持久力がなくなってきます。1年に筋肉の量は1%ずつ減っていきます。85歳以上の人のミトコンドリアの機能は18~39歳の人の46%にまで減少していることが知られています。これまで、メタボが注目され、“おなかポッコリ”が悪とされてきました。この事実は変わることがないのですが、いまは、そうして中年期にメタボとなった人がミトコンドリア機能が衰えたまま、高齢になっていくことで筋肉量がどんどん減っていくことが注目されています。動きが遅くなる、転びやすいなど、多くの高齢者を悩ます症状が起こってきます。これが、いわゆる“フレイル(虚弱)”と呼ばれる状態です。

フレイルでは日常生活レベルの悪化は2.0倍

フレイル予防のためにも運動と食事が大切
フレイル予防のためにも運動と食事が大切
フレイルは次の基準で診断されています。①体重が減少、②歩行速度が低下、③握力が低下、④疲れやすい、⑤身体の活動レベルが低下。これら5つのうち、3つが当てはまるとフレイルとみなされます。大まかな基準なので判断しにくいですが、歩行速度の低下が分かりやすいと思います。速度が0.8m/秒以下の状態。これは、交差点で信号待ちをしていて、赤から青に変わって横断歩道を渡り始めて、信号が変わるまでに反対側まで渡り切れない状況です。 フレイルになると、転倒の発生は1.3倍、移動能力の悪化は1.5倍、日常生活レベルの悪化は2.0倍になることが知られています。

中年の時にメタボになると、将来ガンや糖尿病の発生を高めて寿命が短くなりますが、高齢者では低タンパク質のほうがむしろ寿命が短くなるという報告もあります。私は、比較的元気なお年寄りには、「食べたいものを一杯食べて元気でいてくださいね」とお声掛けしています。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。