第10回

ミトコンドリア健康長寿法①

大半の病気は「ミトコンドリアの機能障害」

私たちは、誰でも老化して最後は死を迎えますが、これは一言でいうと、細胞代謝の低下であり、“ミトコンドリアの衰え”と言えます。細菌やウイルスなど別の生物に体を侵される「感染症」は別として、がんも含めた大半の病気、メタボリックドミノに登場する「非感染性疾患」は、すべて「ミトコンドリアの機能障害」とみなせます。ですから、ミトコンドリアを元気よく保つことは、私たちの体を元気に保つことに即つながります。

胃腸と心血管の強化が健康長寿につながる

私たちの研究グループは、胃から分泌される「グレリン」、そして、心臓血管から分泌される「ナトリウム利尿ペプチド」や「NO(一酸化窒素)」というホルモンがミトコンドリアを元気にすることを見つけ出しました。ミトコンドリアでつくられるATP(活動するためのエネルギー源)の原料である栄養素を吸収する消化管である胃、そして、燃料の酸素と原料の栄養素を運ぶ血液を送り出す心臓や血液が流れる血管から分泌されるホルモンたちが、ミトコンドリアを元気にするということには何か因縁めいたものを感じます。胃腸と心血管の強化が健康長寿につながるというのは、至極明白なのですが、それはホルモン的に説明がつくのです。奇しくも、これらのホルモンは、日本人研究者によって発見されました。メイドインジャパンといえるホルモンは、私たちに元気を与えてくれます。

メタボリックドミノイメージ図
生活習慣の乱れが「肥満」を引き起こし、やがて「食後高血糖」「血圧上昇」「脂質異常」、いわゆるメタボリックシンドロームが起こる。その後もドミノ倒しのように「動脈硬化」が進み、「糖尿病」が起こり、さらに「腎臓病」「脳卒中」「心不全」「認知症」などが引き起こされる─。伊藤先生が2003年に世界で初めて提唱し、画期的と評された概念「メタボリックドミノ」。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。