「善玉菌 vs. 悪玉菌」のうそ
格段に上がった腸内細菌のメタゲノム解析。
腸内細菌の話題では、善玉菌と悪玉菌がよく挙げられます。乳酸菌やビフィズス菌は良いもの、大腸菌やウェルシュ菌は悪いものと言われます。その見方はある面においては正しいですが、ほとんどの菌は、いわゆる「日和見菌」と呼ばれる、良いこともするし、悪いこともする菌たちです。悪玉菌が増えるとその加担をしますし、善玉菌が優勢になるとそれに味方します。しかし、最近の研究では、「良い vs. 悪い」という区分けの問題ではなく、腸内細菌全体としての数や種類が重要であるということが分かってきました。メタゲノム解析というコンピューター技術を駆使した詳しい遺伝子解析ができるようになり、私たちの腸内細菌の種類やその数が格段に正確に分かるようになったのです。
社会も腸内細菌も「多様性」が大切。
こうしたコンピューター技術で、私たちの腸内細菌を調べてみると、腸内細菌の種類が多い人たちと、少ない人たち(遺伝子数が48万以下の人)に大きく分かれました。さらに面白いことに、腸内細菌の遺伝子の数が少ない人たちに肥満の人が多く、こうした人たちは同じカロリーをとっても太りやすいという結果でした。つまり、どんな腸内細菌がいることが大切なのかということより、どれだけたくさんの種類の腸内細菌がいるかということが重要であることがわかったのです。これは「腸内細菌の多様性」と呼ばれます。
社会で例えるなら、みんな画一的な働き手であれば、平穏な社会ではその生産性は上がるかもしれませんが、状況が変化した時の危機管理には弱い。そんな時には、普段は働いていないタイプが一般のタイプが持っていない力を急に発揮してその社会を救うというのです。最近注目されている社会のロバストネス(強靭さ)において、社会の多様性が大切だということを示しています。
慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生
京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。
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