第14回

認知症とミトコンドリア①

脳内神経細胞のミトコンドリア機能の低下

 認知症は、「超高齢社会」において深刻な問題です。近年、日本人がなりたくない病気の1位にあがるなど、「100年人生」の設計に大きな影響を持ちます。認知症が発症するのは、脳内の神経細胞のミトコンドリア機能の低下が原因であることが知られています。私たちの脳の神経系を構成する細胞は、1,000億個以上の「ニューロン」と、その10倍以上もの「グリア細胞」から成り立っています。認知症が起こるメカニズムとしては、ニューロンに栄養を与える役割を担うグリア細胞のミトコンドリアの機能が低下することで、ニューロンに栄養供給できなくなり、次第に電気信号を伝える機能が衰えてしまい物忘れなどが増えてしまうのです。

物忘れを自覚できている段階で対策を講じる

物忘れを自覚できている段階で対策を講じる
現在のところ、認知症を完全に治す薬は存在しません。症状を遅らせることしかできないのです。実際に周りの人から見て、明らかに認知症だと分かる範囲であったり、生活のサポートが必要になったりするレベルまで進んでしまうと従来の生活を取り戻すのが難しくなってしまいます。「物忘れが多くなってきたな」とか、本人が自覚できている段階で対策を講じなければなりません。今、科学的に証明されている個人ができる有効な認知症対策は、なんと「運動」です。運動は、衰えた神経のミトコンドリアを元気にしてくれます。次回、認知症予防のためにどのような運動をすればよいか、運動がもたらす効果などについてお話いたします。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。