健康に関する情報や知っておくと役に立つ情報等を医師の視点からお伝えします。
第20回
高齢者と食事の栄養④
ミトコンドリアの調子は栄養状態に直結する
前号では、高齢者が食事を抜いたりすることで、体内の栄養が足りなくなる問題点をお伝えしました。エネルギーを生み出すミトコンドリアの調子は、栄養状態と直結しています。食べるものが無い時代には、「しっかりと栄養を取らないといけませんよ」と言われ続けてきました。食べるものが豊富になった現代でも、やはり適正な栄養摂取はミトコンドリア力を保つために大切です。しかし、この“適正な”体重、“適当な”栄養というものが実は難しい。一般的にBMIが22となる体重が「適正体重」とされています。「適正体重」は、生活習慣病になりにくく、長寿が最も期待される体重です。ただ、厳密に22がベストかと言うとそうは言い切れず、調査によってある程度の幅があるのも事実です。
適正体重、適正脂肪量は人によって異なる
例えば、少しくらいは太っていたほうが、抵抗力があって長生きするのではないかという話もよく耳にします。確かに極端な痩せが体に悪いことは自明だし、BMIが20以下では事実死亡率も高くなります。私は適正な体重、適当な脂肪量というものは、それぞれの年齢や病気の状態などで異なると考えています。特に年齢を重ねるに従って、その人がそれまで生きてきた歴史の重みが増してきます。この個人の歴史の重みは、その人の寿命や将来の病気のなりやすさに大きく影響します。その人がそこまで元気に過ごしてきた、という事実に対して十分敬意を払い、その人の適正体重を考えないといけません。私は、70歳、80歳の方でBMIが26、27であったとしても、若い人と同じように「22が一番良いです、25以下にしてください」と単純に言えないと考えています。
原稿執筆
慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生
京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。
バックナンバー
- 第20回 高齢者と食事の栄養④
- 第19回 高齢者と食事の栄養③
- 第18回 高齢者と食事の栄養②
- 第17回 高齢者と食事の栄養①
- 第16回 認知症とミトコンドリア③
- 第15回 認知症とミトコンドリア②
- 第14回 認知症とミトコンドリア①
- 第13回 ミトコンドリア健康長寿法④
- 第12回 ミトコンドリア健康長寿法③
- 第11回 ミトコンドリア健康長寿法②
- 第10回 ミトコンドリア健康長寿法①
- 第9回 鶴は千年、亀は万年
- 第8回 ミトコンドリア -生きる源
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- 第2回 生物はすべて「食べるために生きている?」
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