ミトコンドリア健康長寿法②
成長ホルモンの分泌を促す「グレリン」
前号お話したミトコンドリアを元気にするホルモン「グレリン」は、1999年、当時国立循環器病研究センターの児島将康・寒川賢治両氏によって発見されました。「グレ」は、インド・ヨーロッパ祖語で「成長」という意味です。私たちが空腹になった時に、胃がその状態を感じ取ってたくさんグレリンを分泌します。飢餓状態はエネルギー切れで、まさに生命にとっては危機的な状況です。こうした状態でたくさん分泌されたグレリンは、血液に分泌されるより早く、胃の周りにある脳へ直通する神経ケーブルに働きかけます。ホットラインのようなものです。こうして「早く食べろ」と脳に命令します。グレリンの脳への命令はそれだけではありません。「成長ホルモン」の分泌を増やせと命令します。
「幸福」のグー
「成長ホルモン」は、成長期の人には摂った栄養素を使って私たちの体(筋肉や骨)を成長させるためのホルモンです。しかし、成長ホルモンは、成長が終わった大人でも分泌されます。私たちの研究チームでは、年老いたマウスにグレリンを投与したところ、持久力が回復しました。実際にグレリンは人間に投与すると、いろいろな病気に効果を示すことが報告されています。どうしてグレリンは、これほどまでに様々な臓器を元気にして、若返らせることができるのでしょうか。それは、グレリンが全ての細胞に入っているミトコンドリアを元気づけるからです。皆さんは最近、おなかがグーと鳴ることがあったでしょうか。空腹時にグーと鳴るのは、実はグレリンの作用です。例えば、1日16時間のプチ断食や普段食べている食事の量を7割程度にするなど、グレリンが分泌されてグーと鳴れば、全身の臓器のミトコンドリアが元気づけられます。まさに幸福のグーです。
慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生
京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。
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