健康コラム
健康に関する情報や知っておくと役に立つ情報等を医師の視点からお伝えします。
第21回

臓器の老化①

がむしゃらに生きていく姿こそ若さの象徴

若かったときのことを思い出してほしい。思い通りに体が動くのは当たり前。仕事に遊びに、まさに身も心も捧げて、無我夢中に没頭できたのではないでしょうか。そうしてがむしゃらに生きていく姿こそ、若さの象徴です。やがて年をとり、体のどこかの臓器の調子がおかしくなり、ある日突然、いつもと違った感触が襲ってきます。そのとき、私たちは初めて、自分の体の中に“臓器が存在している”ことに気づきます。胸に息苦しい痛みを感じて初めて、自分の心臓がそこにあって一日中鼓動を打っていることを思い知ります。おしっこの出が悪くなって初めて、そのあたりに前立腺があることを実感します。胆石の発作で猛烈な痛みを感じ、初めて胆のうの存在を意識する人もいるかもしれません。

“老いる”とは臓器たちの存在に気づくこと

kidney
故障して初めて臓器たちの存在に気づきます。そして、そのときになってようやく私たちは臓器のありがたさに気づき、愛おしく思い始めます。まさにそのとき、“老いの実感”が心の中に湧き上がってきます。“老いる”とは、臓器たちの存在に気づくことではないでしょうか。今号から、臓器たちを健やかに保ち長く生きるためにはどうしたらいいのか、私たち“生き物”の原点の姿に立ち返り、日々私たちを支えてくれている臓器たちを見つめなおすことで、この問いに対する答えを探っていきます。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。