健康コラム
健康に関する情報や知っておくと役に立つ情報等を医師の視点からお伝えします。
第25回

臓器の老化⑤

「記憶」は脳だけに宿るものではない?

一般的に「記憶」というのは脳の中に宿るものですが、私たちは、記憶は脳以外の臓器の中にもつくられるのではないかという研究をしてきました。いわゆる生活習慣病の中で最大の疾患は高血圧であると考えられます。高血圧を改善した時の死亡数の減少効果は、タバコをやめた時の効果に次ぐ大きさであることが試算されています。高血圧は、塩分の取り過ぎが最も大きな要因です。最近は肥満の人が増え、肥満に起因する高血圧も深刻化しています。しかも肥満の人は、同じ量の塩分を取っても、通常体型の人よりも血圧が大きく上昇する傾向があります。個人差はあるものの、塩分を取れば取るほど血圧は上昇します。

各臓器に良い変化を記憶させる

私たちは、「過去」においてたとえ一時的にでも多くの塩分を取ってしまうと、その「記憶」が体に残って、塩分の過剰摂取をやめてもずっと血圧が上昇したままになる現象を動物実験で見つけました。一時的な高塩分食による持続的な血圧上昇効果を、私たちは「塩分メモリー」と呼んでいます。たとえば、「塩分メモリー」を持ったラットの腎臓を、正常のラットに移植すると、このラットの血圧が上昇し、高血圧になりました。つまり、「塩分メモリー」は腎臓というたった一つの臓器の中にあったのです。このようなことを知るだけでも、自然と不摂生や暴飲暴食のような「若気の至り」は避けようと思えますよね。少しでも若いうちに生活習慣を改善することで、各臓器に良い変化を記憶させておけば、健康状態をその後も保ちやすくなることが分かっています。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。