健康コラム
健康に関する情報や知っておくと役に立つ情報等を医師の視点からお伝えします。
第23回

臓器の老化③

糖尿病の人は平均10年多く歳を取る?

前号では、肥満に端を発したメタボリックシンドローム、そして様々な臓器の老化が進んでいくとお伝えしました。肥満や糖尿病になると、体の中の糖分や脂肪分がだぶついているので、かえって、人間が活動するためのエネルギーを糖分や脂肪分から生み出す「ミトコンドリア」がさぼってしまいます。あまり働かなくてもエネルギーをつくれる贅沢な状態は、ミトコンドリアを甘やかすことになります。そのためメタボにより、細胞一つひとつに数百〜数千個含まれているミトコンドリアの機能が低下し、徐々に臓器の機能が悪くなり、老化が進んでしまいます。糖尿病の人の体はそうでない人に比べて平均10年、歳を取っているということが知られています。

運動習慣を身につけ臓器を健やかに

認知症は、「超高齢社会」において最も深刻な問題です。「100年人生」の設計に大きな影響をもたらします。いま、科学的に証明されている個人ができる有効な認知症予防は「運動」です。最も頻度が高い神経の病気であるパーキンソン病は、神経細胞のミトコンドリアの機能が悪くなることが原因であることが知られています。運動は、衰えた神経のミトコンドリアを元気にしてくれます。運動すると、メタボリックシンドロームや高血圧、糖尿病は改善に向かい、認知症になりにくい体質にもなります。皆様も食生活を見直すだけではなく、運動習慣も身につけることで臓器を健やかに保ちましょう。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。