生物はすべて「食べるために生きている?」
どんな生物も「腸」から誕生する。
私たちは生きるために食べると思っていますが、実は食べるために生きているかもしれません。なぜなら、どんな生物もまず腸から誕生し、そのあとに脳ができるから。脳の本当の役割は腸をうまく動かすためにできたのです。それくらい腸は大切。私たちは1年間に約1トンの食物を取っています。食べ続けて、1日でも長く生命を維持し、そうしている間に自分の遺伝子を子々孫々に伝えることこそが生物の生きる本来の目的なのです。ですから、生物の進化の中で、まず「消化器系」が発達してきました。現代では脳がものすごく発達し、それ以外の働きをたくさんしてくれるようになったので、さもそちらのほうが大切に見えますが、重要な臓器から誕生するという意味では腸のほうが大切でしょう。
腸が「免疫機能」を担うのは、外敵を排除する最前線だから。
そして、コロナ禍で特に注目されている「なぜ腸が免疫機能を担うのか?」という観点ですが、私たちは体の外から異物である食物を取り込み、消化して消化管を通して栄養を吸収します。当然その中には食べ物に付着しているバイ菌のように、体にとって都合の悪いものも侵入してくる可能性があります。そのような「外敵」を排除するために、腸には「免疫系」が発達してきました。その腸をサポートするのが腸内細菌です。腸内細菌たち1つ1つが保有している遺伝子は私たちと比べて貧弱です。しかし、私たちの遺伝子は約3万個ですが、腸内細菌の遺伝子の総数は約50万個、私たちの遺伝子よりも10数倍も多いのです。ですから、腸内細菌の個々の能力は極めて貧弱であっても、その力の総和はとてつもなく大きい。ある意味、私たちは、自分自身の細胞の核の中に“持ちきれない”遺伝子を、腸内細菌たちに“持ってもらい”、その総力で大きな代謝を行っています。まさに“持ちつ、持たれつ”の共生関係なのです。
慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生
京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。
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