健康コラム
健康に関する情報や知っておくと役に立つ情報等を医師の視点からお伝えします。
第26回

臓器の老化⑥

腹八分目がからだにいい

「腹八分目がからだにいい」ということは、一般的に認知され、かなり市民権を得てきています。腹八分目、つまり摂取カロリーを7割から8割ぐらいにすると、下等動物からおそらくサルまでのすべての生物において、臓器の老化で起こってくる疾患(がんや糖尿病、認知症など)が減り、寿命が延びると言われています。そして、その効果をもたらす物質として、「サーチュイン」と呼ばれる酵素に注目しました。サーチュインは、“長寿遺伝子”と言われることがあり、現在までに7種類見つかっています。「Sirt6」と呼ばれるサーチュインの遺伝子をなくしたマウスでは、寿命が短くなることが報告されています。サーチュインは、カロリー制限で活性化し、過食や肥満でその作用が低下します。

寿命を延ばすスイッチ、サーチュイン

私がサーチュインに注目したのは、代謝やエネルギー状態のセンサーとして働く「NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド/nicotinamide adenine dinucleotide)」というビタミンの仲間(補酵素)によってサーチュインが活性化されることで、エピゲノム作用が起こり、ミトコンドリアを元気にするからです。ミトコンドリアの働きが各臓器の老化に深く関わっていることは、これまでも繰り返しお話してきました。カロリー制限により寿命が延びることは、代謝、ミトコンドリア、そしてエピゲノムが、抗加齢・健康・長寿に密接に関与していることを証明しています。
※エピゲノム:遺伝子の使い方を制御し、老化の速度やタイミングを決定づける仕組み。
慶應義塾大学 予防医療センター 伊藤裕先生
原稿執筆

慶應義塾大学 予防医療センター 特任教授
伊藤 裕(いとう ひろし)先生

京都大学医学部卒業後、ハーバード大学、スタンフォード大学医学部博士研究員を経て、慶応義塾大学医学部教授を務める。2003年に世界で初めて「メタボリックドミノ」を提唱。世界に先駆けて胃から分泌される「グレリン」がミトコンドリアを元気にすると発見。メディアに多数登場。