第13回

ストレス発散に大切な安眠・熟眠

前回から「病気予防のライフスタイル」についてお話しております。今回は、心身に受け続けると健康に害を及ぼす可能性のある“ストレス”の発散に大切な安眠・熟眠をテーマにお話します。

安らかな眠りを得よう

月並みですが、平均すると人生の約1/4~1/3は睡眠時間です。日本は遅寝、早起きの世界上位のベスト10に、その両方ともが入っている働き者の国です。睡眠時間が6時間以内の人が国民の40%もいるそうです。1960(昭和35)年時では、1人あたりの平均睡眠時間は8時間13分ですから、かなり睡眠時間が短くなっているのが分かります。単に長ければ良い訳ではなく、個人にとっての充分な睡眠時間であり、特に質が問題です。

睡眠の質を高めると疲れが取れ、社会人は仕事の能率が上がり、学生は勉強への意欲が高まりますから、質のよい睡眠は人生の質を高めることにつながります。REM睡眠(夢を見ている眠り)は肉体の眠りで体の疲れを取り、non-REM(ノンレム)睡眠は脳の眠りで脳の疲れを取るので、少なくとも深いnon-REM睡眠がくる入眠から3時間はしっかり眠ることが大切です。

寝不足と不眠は別もの

寝不足は単に眠る時間がないだけなので、その時間さえ作れば解決します。実は寝ているのに不眠だと思い込んでいる人もいますので違いを明確にしましょう。眠くないなら寝なくても良いですし、早く目が覚めたら起きても構いません。場合によっては徹夜もありです。本当の不眠症は身体が疲れて寝たいのに脳が興奮して眠れない状態です。不眠の負担は毎日少しずつ蓄積するので、それが続くと徐々に脳の反応性が落ちていきます。

過重労働と不眠症が合わさると、うつ病の危険度が3倍へ上昇するとか。この解決方法の基本は過重労働や難儀な人間関係からの解放であり、薬剤では治りません(私も経験済み)。また、不眠症は過度のストレスによる交感神経緊張状態と同じく、白血球の分布にも変化を来してリンパ球よりも顆粒球が優位となり、ウイルス担当のリンパ球低下から風邪を引きやすくなるので、弱り目に祟り目です。すべき対策は緊張の解除です。ストレス発散や、副交感神経を優位にするためにリラックスすることが大切であり、「病は気から=病は自律神経から」とも言えます。睡眠中は副交感優位なので、強めの頭部外傷を受けたお子さんが一頻り泣いた後に寝てしまうのは自然に備わったストレス発散の自己防衛システムと思われますので、大人でも早く眠気が来てしまったら逆らわずに寝てしまいましょう。心身の修理修復のためにも睡眠が必要なので、不眠が続けば壊れます(惰眠の貪りも逆効果)。ともかく、癒やされてください。

快眠のポイント

  • 毎日同じ時間に起きる
  • 起きたら朝日(強い光)を浴びる
  • 食事の時間は規則的に
  • 運動は寝る2時間前までに終了
  • 昼寝をするなら短めに(20分程度)
  • 夕食後のカフェインは控える
  • 寝る前の食事・喫煙・アルコール・PCは控える
  • 寝室は快適にし、寝るためだけに使う(テレビを置かないなど)
  • 夜間は間接照明か真っ暗に
  • 寝る前に音楽を聴く(アロマの利用もよい)
  • 眠くなってから床につく
  • 合う枕を選ぶ
脳神経外科専門医 田中佳先生 原稿執筆

脳神経外科専門医
田中 佳(たなか よしみ)先生

1960年、東京都生まれ。
1985年に東海大学医学部を卒業後、同大学附属病院脳神経外科助手を経て市中病院にて急性期医療に長年携わる。
日本脳神経外科科学会認定専門医として、脳神経外科診療を行いつつ、予防医学の教育講演活動に取り組む。