第12回

免疫力を上げるライフスタイル

第7回から5回にわたってライフスタイル革新の要である“食”についてお話してまいりました。今回からから、「病気予防のライフスタイル」についてお話していきたいと思います。

我々の体の中では休むことなく新陳代謝が営まれています。新陳の「新」は新しい細胞が分裂産生され、「陳」は古い細胞が朽ちて廃棄されることを意味しています。常に入れ替わりながら同じ状態を保つことを動的平衡と言います。分裂速度は成人でおおむね、消化管の粘膜は3~5日、白血球は14日、皮膚は28日、筋肉は3ヶ月、赤血球は4ヶ月、骨は7~8年で入れ替わります。ですから、10年も経てば以前の自分はほとんど存在しません。「だから何?」と思うでしょうか。新しくできる細胞の質がよくなれば、数ヶ月でかなり体質は変えられるのだということです。その元となる、過去5回にわたってお話した体質改善の基本となる「食」の大切さを今一度心に刻んでいただきたいと思います。

腸内環境を整え、楽しく生きる

今回、お話する免疫力を上げるライフスタイルについてですが、免疫力を上げるために必要なことは主に2つあります。1つは腸内細菌を善玉にシフトすること、もう1つは笑いのある楽しい生活をすることです。腸内細菌が善玉菌優位であり続けることで免疫担当細胞が活発になります。楽しいと思うことで免疫活性が20~50%向上し、逆にくよくよ生活すると50%低下する報告があります。あと、自律神経には交感神経と副交感神経が対をなして制御しています。何かの発表会の直前の舞台袖では、のどはカラカラ、心臓はバクバクしますが、これは交感神経緊張状態です(戦闘モード)。楽しい感情は副交感神経を優位にしてくれるだけではなく、様々なリラックス効果のある脳内ペプチド(ドーパミン、セロトニン、オレキシン、エンドルフィンなど)が分泌されています。要は「癒し」です。

ストレスを発散すること

心身ともにストレスを受け続けると不健康になるのは皆さん何となくご存じです。これは交感神経緊張状態が延々と持続することにほかなりません。精神面を見ますと、シマウマを狙うライオンのような戦闘状態がずっと続くわけです。例えていうと、毎晩泥棒が侵入してきてもいいようにバットを構えて暗がりに身を潜め続けているような状態です。考えただけで疲れます。ストレスはその状況から抜け出ることができない異常事態です。ですから、異常な緊張状態が続けば、眠くならないのは当り前ですから不眠症はストレスにつきものとなります。

身体面を見ますと、ストレスに体が耐えられないと判断されると、抗ストレスホルモンが副腎から分泌されます。副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)です。ステロイドの副作用が恐いという知識も多くの方はお持ちですが、このストレス持続状態はステロイド持続注入と同じような異常事態です。薬剤として使われるほど大量に分泌されませんので、すぐに激しい作用が出るわけではありませんが、長引けば体には不調が現れてきます。ストレスを発散する方法は、他人に迷惑がかからなければ何でもけっこうです。一番いいことは、趣味に走ることです。お好きでしたら、カラオケ熱唱でも、土手を走っても、山へ登っても、海に向かって叫んでも構いません。無趣味な方は、公園を散歩してきれいな景色や青空を見るとか、映画を観るとか、スーパー銭湯へ行くとか、何らかの非日常的な行為を行なってください。ご自身にとって、誰と、何処で、何をしたら癒されるのかが大切です。次回は、ストレス発散にとって大切な安眠・熟眠に関してお話します。

脳神経外科専門医 田中佳先生 原稿執筆

脳神経外科専門医
田中 佳(たなか よしみ)先生

1960年、東京都生まれ。
1985年に東海大学医学部を卒業後、同大学附属病院脳神経外科助手を経て市中病院にて急性期医療に長年携わる。
日本脳神経外科科学会認定専門医として、脳神経外科診療を行いつつ、予防医学の教育講演活動に取り組む。