病気を呼び込むライフスタイル①
人々が利便性と利益を追求し続けた結果、あらゆる生活空間で知らず知らずのうちに体はダメージを受け続け、健康を害することにつながっています。今回から、病気を呼び込むライフスタイルについてお話させていただきます。
自然から離れると、健康からも離れていく
第二次世界大戦を境に衛生環境が改善されて、結核などの感染症による死亡が激減したのはよいことです。しかし、戦後一気に生活習慣病の範疇である三大疾病(ガン・心臓疾患・脳血管障害)による死亡者数が増え続け、現在では死因の約60%を占めています。これらの病気が増えてきた高度経済成長期の社会動向は大量生産、大量消費に象徴されます。主なエネルギー源は石油となり、世界的な工業国へと成長していきました。豊かさを求め、テレビ・冷蔵庫・洗濯機の家電製品の三種の神器が各家庭へ急速に普及しました。その結果、工業廃水や家庭廃水が河川や海を汚し、工業地帯では大気汚染によるぜんそくや、有機水銀汚染の水俣病などの公害も生みだされました。我々の生活スタイルは、自然から離れれば離れるほど健康からも離れてしまうのです。
希薄な家族関係が体に与えるダメージ
人は何のために食べるのでしょうか。単にお腹がいっぱいになればよいのではありません。
栄養素を取り入れて体の機能の恒常性(体外の環境変化の影響に対して、体内環境を一定の状態に保つ働きのこと)を維持するための行為にほかなりません。
満腹になっても、健康を維持するための栄養素が乏しい食生活は、少しずつ確実に人々の健康を奪っていきます。誰しも、いつ病気やケガをするか分かりません。その備えとして生命保険や損害保険を掛けたりしますよね。それも大切だと思いますが、病気にならないために、よい食材や調味料にお金を掛けることも「病気予防保険代」と捉えてみたらどうでしょうか。
また、近年では、家族で食卓を囲む機会が減ったり、家族全員が家にいて、せっかく食卓を囲んでいるのに全員がテレビを見て黙々と食べていたり、全員の食事時間がバラバラだったり、各自の部屋で食事ということも珍しくありません。この“孤食環境”は人とのコミュニケーション能力を奪うばかりか、食べる楽しみを知らずに過ごすことになります。
楽しい、美味しいと思うことで、脳を活性化させるドーパミンや、快感物質のエンドルフィンが分泌され、笑うことだけでも免疫能力が2割増しになるという報告もあり、特に成長期のお子さんには必要なことなのです。ご両親も忙しいとは思いますが、子どもが自分で食事ができるようになったからといって「1人で食べられるわね」と投げ出してはいけません。愛のない食卓は、ストレスに満ち、健康の足を引っ張り続ける生活を与えることになるのです。
次回は、「病気を呼び込むライフスタイル②」をテーマにお話させていただきます。
脳神経外科専門医
田中 佳(たなか よしみ)先生
1960年、東京都生まれ。
1985年に東海大学医学部を卒業後、同大学附属病院脳神経外科助手を経て市中病院にて急性期医療に長年携わる。
日本脳神経外科科学会認定専門医として、脳神経外科診療を行いつつ、予防医学の教育講演活動に取り組む。