第2回

自己治癒力を高めるカギは、〝三大生命維持機構〟の制御。

生体機能を一定に保つホメオスタシス。

古代ギリシアの聖医ヒポクラテス(紀元前四百六十年頃~紀元前三百七十年頃)は「人は生まれながらにして体内に百人の名医を持っている」と語りました。百人の名医とは体に本来備わっている“自己治癒力”のことのようです。良医はまず、百人の名医を手助けすることを心掛けるべきだと思っております。

日々損傷、劣化していく六十兆個の細胞を、一日数千億個も回転よく取り替える、あるいは膨大な生体情報を上手く制御分担させて組織、臓器を駆動して、生きるための生体機能を一定の状態に保っていることを『生体恒常性(ホメオスタシス)』といいます。命を維持するためのホメオスタシスには、多くの機構が関与し、最近では全細胞内にあるオートファジー装置が劣化したパーツの除去浄化と再利用機能を有すること、腸管と内部の百兆を超える細菌達が免疫応答制御や脂肪酸、アミノ酸、酵素産生などの重要な役割を果たしていること、なども明らかとなっています。

その中で重要な生命維持機構として、あえて次の三つをあげたいと思います。

免疫防御系、内分泌ホルモン系、自律神経系の重要性。

「免疫防御系」は自己由来か外部由来かを見分け、樹状細胞、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、リンパ球、顆粒球などの免疫担当細胞、免疫グロブリン抗体やインターフェロンなどを駆使して、細菌、ウイルス、寄生虫など外部からの侵入者を排除してくれます。また日々数千個も芽生えてくるガン細胞を見つけて破壊し、大事に至らないようにしてくれています。

「内分泌ホルモン系」は視床・脳下垂体、甲状腺・副甲状腺、副腎、膵臓、卵巣、精巣などが協力し、代謝・成長などに必要なホルモンを提供し、命を支えています。赤ん坊から魅力的な男女に成長し、結ばれて妊娠、出産する、このような人の一生折々に様々なホルモンが関わり、人類の命の連鎖にも貢献しています。

「自律神経系」は交感神経、副交感神経の二種があり、呼吸や血圧・血液循環、体温、消化吸収、排泄に関わる主要臓器など、心身の重要機能を自動的にコントロールしてくれます。持続するストレスは、交感神経の過度緊張状態を引き起こし、心身に多大な影響を与えます。ステロイドホルモンやノルアドレナリン産生は増加し、免疫防御系機能の低下、血圧上昇などを引き起こし、ガン、鬱、糖尿病、心不全、脳卒中などに繋がります。ストレスが万病に繋がると云われるゆえんですね。

自律神経系は内分泌ホルモン系、免疫防御系の制御にも関わる。

自律神経系は内分泌ホルモン系、免疫防御系の制御にも関わる。

内分泌ホルモン系、免疫防御系、自律神経系、この三つのシステムはどう関連して働いているのでしょうか。すべては連携し、情報をフィードバックしながら円滑に作動するようになっています。その中で私が最も注目しているのは自律神経系です。膨大な生体内情報は、まず大脳、間脳などに集まり処理され、指令は視床下部から自律神経系に伝わります。自律神経系は、交感神経、副交感神経の精緻な回路を駆使して、一瞬のうちに体の隅々、全細胞の生体機能まで制御していきますので、内分泌ホルモン、免疫担当細胞の増減などの制御にも関わっています。

交感神経と副交感神経が正常にきちんとバランスよく働いていると、心血管の働きも良くなる、胃腸の調子が整う、筋力が高まる、体が温かくなる、内分泌ホルモン機能や免疫防御機能も高まるなどして、健康増進にもつながります。自己治癒力を高めるためには、まず自律神経系を強化し、バランス良く働かせることが大切です。呼吸法、経絡刺激法(爪揉みや耳引っ張り・神門メソッド)、アロマ療法などが極めて有用ですので、次回はこれらの活用法についても詳しくお話ししたいと思います。

広島大学名誉教授 土肥雪彦先生 原稿執筆

広島大学名誉教授/県立広島病院名誉院長/あかね会老健シェスタ施設長
土肥 雪彦(どひ きよひこ)先生

1960年広島大学医学部卒業。広島大学医学部教授(第2外科学)、広島大学医学部付属病院長、日本肝移植研究会会長、県立広島病院長、中国労災病院長、医療法人あかね会土谷総合病院顧問などを歴任。現在あかね会老健シェスタ施設長。