岩堀 美雪 さん(元小学校教師(教師歴31年)/ 株式会社子どもの笑顔 代表取締役)インタビュー

30年以上の教員経験から「どの子にも必ずいいところがある」との信念を持ち、「宝物ファイルプログラム」という独自の教育法を伝え、全国からの講演・研修講座依頼が相次いでいる岩堀先生。その手法がどう自己肯定感を高め、またどのように人の成長に影響を及ぼすのか、お伺いしました。

教師生活の31年間、現場で子どもに教え続けた。

私が教師を志したのは、高校の夏休みの感想文の宿題で小説『二十四の瞳※』を読んだことがきっかけです。 小学5年生の時に1度読んだことがあったのではやく書けるだろうと思って選んだ本だったのですが(笑)、以前とはまったく違うものを私に訴えかけてきて、学校の教師になりたいと強く望むようになったのです。小説で描かれた瀬戸内のさびれた村に赴任したばかりの若い女性教師と、個性豊かな教え子12人の交流がなんとも可愛らしく、子どもっていいなと思いました。そして大学の教育学部を卒業し、教師になって初めての給料を実家の仏壇にお供えした時、母親へ「こんなに素敵な仕事をして、給料をもらうなんて悪いみたい」と伝えたのを覚えています。職員室で年齢が上のほうになると、「管理職になりませんか?このままでは年下の方のもとで働くことになりますが…」という打診もあったのですが、「全然問題ありません。ずっと現場で教えていたいので」とお返事して教師生活の31年間、最後まで学級担任をさせていただきました。

※作者・壺井栄。第2次世界大戦の終結から7年後の1952年に発表された作品。

ずっと自分を 大好きでいてほしい、その願いから生まれた「宝物ファイルプログラム」。

学級担任をしていて思ったのは、教師って教えるのが仕事のはずなのに、教えてもらうことも多いということ。中でも1番私に影響を与えたのが「どの子にも必ずいいところがある」ということ。しかし、子どもたちを評価するのはテストや通知表ばかり。学級人数の割合で5段階評価をつけなければいけないので、どうしても低い評価をつけなければならない子とかが出てくると苦しかったですね。ですから、ことあるごとに子どもたちには言葉で伝えていました。「勉強も大切だけど、もっと大切なことがあるよ。それは人間としての優しさだったり、勇気を持つことだったり、明るさだったり、みんなにいいところがいっぱいあるよ」と。あとはクラス全員で県庁所在地を漢字で書けるようにしようとか、百人一首を100枚覚えようとかに挑戦しました。最初は無理だと思っても努力したらできたという経験をしてほしかったからです。
そんな子どもたちが、より学力が重視される中学校に行く時に私が1番願ってきたのは、「テストの点数だけが全てじゃない。自分の長所を自分で認めて、ずっと自分のことを大好きでいてほしい」ということでした。この願いから自己肯定感を育てる「宝物ファイルプログラム」は誕生しました。2000年11月、福井県の片田舎の学校の小さな教室から始まった宝物ファイルプログラム。目の前の子どもたちにと願って始めましたが、「全く自信がなかった子が体育大会の応援団長に立候補するようになった」「喧嘩ばかりしていた子が友達と仲良くなった」等、予想以上の効果があり、私自身も驚きました。

宝物ファイルプログラムをきっかけに「親に反抗していた子が反抗しなくなった」。

宝物ファイルプログラムは、まずポケット式のクリアファイルを準備します。そして自分の目標や叶えたい夢を書きます。次に自分のいいところを用紙に書いて入れていきます。中には自分のいいところを書けない子もいますが、そんな時は無理せず「書けなくてもいいよ、また後で見つかるからね」と言ってあげます。また、友達同士でもお互いのいいところを書き合います。さらには保護者の方にもお子さんのいいところを書いてくださいとお願いしています。もらった大切なメッセージもファイルに入れます。自分が頑張ったマラソンの記録カードや作文なども入れていきます。すると、自分のいいところを書けなかった子が10個書けたり、1個だった子が25個書けたりするようになり、体育大会の応援団長に立候補する等、その子が変わっていくのが目に見えて分かるのです。
保護者会ではこんなエピソードもありました。小学5年生の女の子のお母さんが、教室のドアを開けるなり、「先生、この度はありがとうございました」と廊下で深々とお辞儀をされたのです。理由をお聞きしますと「うちの娘が『私のいいところを書いて」と便箋を持ってきました。私は即答であんたのいいところなんて1つも無いわと返しました。当時の娘はそれほどわがままで反抗的だったからです。でも、娘が持って帰ってきた宝物ファイルの中の友達からのメッセージを見て、私は驚きました。そこには、『明るい』『笑顔がいい』『元気がある』等、私の知らない娘のいいところが書いてありました。それを読んでこれではいけないと思い、夕食が終わったテーブルで家族会議を開き、夫と私と祖父母と2人のお姉ちゃんみんなであの子のいいところを書きました。良い機会を与えていただいてありがとうございました」とのこと。そして、その女の子が6年生の春に家庭訪問をした際、お母さんが「そう言えば! 家族があの子のいいところを書いてからピタッと反抗しなくなりました!」とおっしゃったのです。その時はそんなことが偶然起きてきたのだと思っていました。でも、今なら分かります。あの子は、家族のみんなにいいところを書いてもらって認められたことで自己肯定感が高まり、家での自分の心の居場所もできたのだと。そうなると人は、気持ちも落ち着いて尖った態度をしなくてもよくなるのです。宝物ファイルのいいところは、その言葉が消えてしまわないで、手元にずっと残ることです。いくつになっても見返すことができます。

▲自分の夢やいいところ、友達や家族からのメッセージをポケット式のクリアファイルに入れていく「宝物ファイルプログラム」。

自己肯定感とは「欠点も長所もありのままの自分を丸ごと認める気持ち」。

これらの効果を目の当たりにするにつれて、「もっと世の中に広めたい。役立てたい」と思うようになりました。そして大学院での研究や自身の勉強を進める中で分かってきたことがあります。「欠点も長所もある、ありのままの自分を丸ごと認める気持ち」を指す自己肯定感は、人の心の健康の土台であるということです。人の心を樹木に例えると、自己肯定感は根の部分にあたります。自分を認めてしっかりとした根を地面の中に伸ばしていけば、その根は水分や栄養分を十分に吸い上げ、幹や枝葉に送ります。すると、その樹はやがて、大樹となっていくことでしょう。根が育っていかなければ、どんな花や葉も十分には育たないですよね。
幼少期から26歳になるまでの約1,000人を対象にした海外の研究※では、自己肯定感が低い子と高い子では将来どのような違いが出てくるのか調べたところ、自己肯定感が低い子は、高い子に比べて、うつ病になりやすかったり、経済的にも学力的にも恵まれない傾向が見られたそうです。
そして、自分のことを肯定できた子は、相手のことも肯定できることも分かっています。それは自分で自分を大切に思う感覚が、同じように相手も大切な存在なのだと気付くことにつながるからでしょう。そのおかげか、クラスで宝物ファイルプログラムを実践すると、お互いを認め合う雰囲気がうまれ、教室全体の空気も変わります。ただ、注意したいのが、自己肯定感が高いと言っても、ありのままの自分を愛することができず、自分は優れていて素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込む「自己愛性人格障害」とは異なることです。欠点さえもありのままの自分として認められるのが自己肯定感なのです。

※参考文献:Trzesniewski KH, Donnellan MB, Moffitt TE, Robins RW, Poulton R, Caspi A (2006) Low self-esteem during adolescence predicts poor health, criminal behavior, and limited economic prospects during adulthood. Dev Psychol 42(2):381–390

世界中の人が自分のことも周りの人のことも認め合える社会を実現したい。

コロナ禍において、多くの人たちが先行きに不安を感じたり、日々変化する環境にイライラしてしまったりすることがあると思います。そんな時こそ、親だから、大人だからとすべてを完璧にしなければなんて思わず、気持ちを楽にして、1度の人生を楽しもうという気持ちを持ってほしいです。欠点があってもいいのです、自分のいいところを見つめる癖をつけてあげてください。この広い世界の中のたった一人の大切な自分なのですから。
2015年には、大人版の宝物ファイルプログラムを開発し、大手企業の研修等にも関わっております。“人間学”を探究する出版社として高名な致知出版社の全社員研修も担当させていただきました。藤尾秀昭社長からは「全社員の心の中に眠っていた熱と誠が一気に噴き出したようです」との言葉をいただき、そのメッセージは私の宝物ファイルに入れてあります。
2017年にはNHK番組『クローズアップ現代+』で取り上げられる等、宝物ファイルプログラムの活動は着実に広がりを見せています。そして、2019年9月からはカンボジアなどの発展途上国を支援する公益財団法人「CIESF(シーセフ)」の要請を受け、小学校1年生のクラスをイチから立ち上げるために1年間の契約でカンボジアに行きました。そこでも宝物ファイルプログラムを実施すると、カンボジアの生徒もスタッフも、笑いあり涙ありですごく感動してくれて。「いまだに大切に保存しています」と仰ってくださり、宝物ファイルプログラムが海外でも通用すると自信を与えてくれました。これがもし世界中に広がったら、世界中の人々が自分も大好き、友達も大好き、自分の国も周りの国も大好き、そして自分の宗教も、あなたの宗教もそれぞれいいところがあるよねという時代になったら、この世界の悲しい戦争が1つでも減るのではないかと思い、私は残りの人生をそのために使いたいと考えています。
昨年は、新型コロナウイルスが感染拡大し、日本へ帰国できなかったばかりか、国際郵便もストップしてしまったので、手元に1箱しかなかったJWティーをゆっくりゆっくり大切に飲ませていただきました。疲れやすかったり、調子が良くないなと感じたりした時に飲むと落ち着きます。寒い季節には、温かいJWティーが内側から温めてくれますね。JWティーと共に、まだまだ元気でい続けて、宝物ファイルプログラムの輪を世界中に広げていきたいです。

岩堀 美雪さん

1960年福井県勝山市生まれ。子どもたちの「自己肯定感」を育むために、2000年から独自の教育法「宝物ファイルプログラム」を実践。NHK番組『クローズアップ現代+』や国連との共同制作番組「ONE WOMAN」等、マスコミ出演も多数。簡単なのに効果抜群な手法が話題となり、全国の教育委員会、PTA、さらには企業や一般の方からも講演・研修講座の依頼が相次いでいる。2015年より、大阪大学大学院連合小児発達学研究科後期博士課程在学。2018年、株式会社子どもの笑顔を設立。代表取締役として企業や一般の方向けに、脳科学や心理学に基づく大人版宝物ファイル講座や宝物ファイルマスター養成講座を開いている。岩堀さんのオンラインサロンはこちらから

『なぜあなたの力は眠ったままなのか(自分を好きになる宝物ファイルプログラム)』
岩堀 美雪著 1,540円(税込)致知出版社
CD『あなたのままで』
1,000円(税込) 一途レコード
作詞・歌:岩堀美雪 作曲:くまひげ
ジェイソン・ウィンターズ・ティー