室田 拓人さん(フランス料理レストラン「ラチュレ」オーナーシェフ)インタビュー

『2018ミシュランガイド東京』にて1つ星を獲得し、世界から注目を集める新進気鋭のフランス料理レストラン・ラチュレ。そのオーナーシェフを務める室田さんに「自然との共生」をテーマに独創的なジビエ料理を生み出すうえで大切にしていること、同店のコースメニューとして提供されるJWティーについてお伺いしました。

野生のイノシシやシカなどによる農作物の被害額は年間200億円。

ラチュレとは、ナチュラル(自然)とラルム(フランス語:雫)の2つの言葉を組み合わせた造語で“自然の雫”という意味を込めました。早朝の霧立つ森の木の葉に集まり大地に滴る朝露、もぎたての野菜や果物を頬張った時に溢れる水分、私たちの生活の至る所に“自然の雫”は存在します。私たちは日々進化して便利になっていく現代社会において、食している物が全て自然からの恵みだという事を忘れてしまっていないでしょうか。当店ではスタッフ一同、「地球の奇跡」とも言える自然に敬意と感謝を忘れる事なく、自然からの恵みをフランス料理で表現することで、皆様に最高のおもてなしを提供したいと考えております。

そして、ラルムにはもう1つ「涙」という意味があります。現在、野生のイノシシやシカなど“害獣”と呼ばれる動物たちが山から降りて来て農家の方々が大切に育てた農作物を食い荒らし、その被害額は年間200億円にものぼります。しかし、一概に動物たちが悪いかと言うとそうではなく、そもそもの原因は人間にあります。ゴルフ場や大型施設などを建てるために動物たちが住んでいる山を切り崩し、樹を切り倒し、住むところを奪ってしまった結果です。これらの動物たちを駆除して終わるのではなく、命の循環につなげたいとの想いから、当店ではジビエ料理を提供しています。自然の恵みとして美味しくいただくことが動物たちへのせめてものつぐないになりますし、農作物被害の軽減にもつながります。そのような現実の上に成り立っていることを忘れないという意味合いも込めて、涙を表すラルムを店名に入れています。

大自然の厳しい環境の中で育ったジビエには、得も言われぬ旨味と栄養が。

フランス料理とジビエはとても密接な関係にあります。フランス料理の中でジビエは高級食材として位置づけられていますし、それを調理することは料理人の醍醐味でもあります。なぜならジビエは飼育された動物の肉と違い、同じ種類の動物でも育った環境によってまったく異なる肉質になるので扱いが難しいからです。例えば、田んぼの近くで仕留めた鴨はお米を食べて育ったために肉質は甘みがあってまろやかですが、山で仕留めた鴨は木の実を食べて育ったために肉を焼くと香ばしいナッツのような香りがします。ですからジビエは、獲れた場所によって一羽一羽、一頭一頭の調理法を変えなければなりません。さらに、大自然の厳しい環境の中で育ち、食物連鎖を繰り返してきたジビエの肉は栄養価がとても高く、得も言われぬ旨味があるのです。

当店では私が自ら山に足を運び獲ってきたジビエを使用することも多いです。自分で狩猟し、獲物を捕まえて料理することは料理人にとって究極の仕事ではないかと思います。私がジビエ料理に取り組み始めた7、8年前は食べる方はまだまだ少なかったのですが、最近では若い女性のお客様も増えてきています。

「自然との共生」を表現するアミューズとテーブルセッティング。

料理を提供するうえで私が特に力を注いでいるのが、コースの1皿目にお出しするアミューズです。アミューズをあまり重視していないレストランもありますが、私は最初に食べるものというのはこれからどのようなコースが始まるのか、シェフが料理に込めた想いを伝えるための大切な道しるべだと考えています。今回ご紹介したコースでは、アミューズとしてシカのブラッドマカロンを提供させていただきました。通常ジビエ料理というと血抜きをした際の血は捨ててしまうのですが、「自然との共生」「いただいた命を大切にしたい」という意味を込めて食材を余すところなく活かしたマカロンに仕上げ、土台には本物のシカの毛皮を使用しております。いただいた命は1つたりとも無駄にしないという私の想いを感じてもらえたら幸いです。


▲いただいた命を大切にするとの想いを込めたアミューズ「シカのブラッドマカロン」。

それからこだわっているのがテーブルセッティングです。大体どこのお店も1年中、同じセッティングを使い続けるのが普通ですが、せっかく自然の恵みであるジビエ料理を提供しているのならば季節ごとに趣を変えたいと、その時期のドライフラワーを採り入れるなど工夫を凝らしています。常連の方であってもテーブルセッティングが前回と異なっているだけで、今日はどんな料理が出てくるのだろうという期待感につながるのではないかと思います。


▲季節ごとに趣を変えるこだわりのテーブルセッティング。

日本の漁業資源を守ることはみんなで取り組むべき喫緊の課題。

当店では、持続可能な漁業の普及に取り組む国際的な非営利団体「MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)」の認証を受けた魚を優先的に食材として採り入れるようにしています。欧米諸国では多くの国がMSCのような団体の基準をもとに漁獲量の制限を決めて資源を守ろうとする活動が進んでいますが、日本では漁獲量の制限が決められてないために獲る必要のない魚まで根こそぎ一網打尽にし続けた結果、全体の漁獲量がどんどん減ってきてしまっているそうです。報道では「アジア周辺諸国が以前よりも魚を獲り始めたので日本の漁獲量が減った」と伝えられたりしていますが、実際その影響は微々たるもので一番の原因は日本人が自ら獲り過ぎてしまっていることだとも言われています。これは漁師さんだけの責任ではなく、国全体で取り組まなければならない喫緊の課題と言えます。私ひとりが訴えたからと言って変わるものではありません。共感していただいた皆様から口伝えなどでその輪がさらに広がっていくとうれしいです。

子どもたちと共に日本の食の未来を作っていきたい。

今後の目標としては、料理人に憧れるような子どもたちをもっと増やしていきたいですね。子どもたちに料理を作る事の楽しさや嬉しさを伝えるため、当店では小学生の皆さんにもご来店いただき、実際に料理人が働く姿を見ることができるようにしています。また、今年9月には東京都渋谷区の食育プログラム「渋谷区こどもテーブル」の一環として、子どもたちと一緒にフランス料理を作りました。料理体験後、将来料理人やパティシエになりたいという子もいて、この会を開催した意味があったなとうれしく思いました。

このプログラムに参加した当店のスタッフたちも社会に貢献しているという誇りを持つことができ、良い刺激になったようです。小学生くらいから私たちと一緒に料理を作り、社会問題なども共有することができれば、日本の食の未来も明るいのではないかと思います。これらの活動を通じて将来ラチュレで一緒に働く子が出たら本当に嬉しいですね。


▲東京都渋谷区の行う食育プログラム「渋谷区こどもテーブル」の一環で子ども達とフランス料理を一緒に作る様子。

ジビエ料理のしっかりとした味わいは飲みやすくさわやかなJWティーと相性が良い。

当店のジビエ料理はクラシックでしっかりとした味付けのものが多いので、JWティーのような飲みやすくさわやかなハーブティーとは相性が良い。もともとクセがなく、素材や料理の味を邪魔しないお茶なので、レストランで提供する側にとって好まれる味だと思います。コースをご注文いただいた皆様にはドリンクとしてJWティーをお選びいただけます。ぜひ当店のジビエ料理とJWティーの組み合わせをお愉しみください。


▲季節の食材を使った5品のシェフおまかせランチコース4,800円(税別) 左「シカ・クマ・イノシシの肉を使ったタルトジビエ」、真ん中上「サーモンのコンフィ」、真ん中下「牛ほほ肉の赤ワイン煮込み」、右上「ぶどうのパフェとバケット」、右中「シカのブラッドマカロン」、右下「ヴィシソワーズ」

フランス料理レストラン「ラチュレ」オーナーシェフ 室田 拓人さん
フランス料理レストラン「ラチュレ」オーナーシェフ
室田 拓人さん
1982年生まれ。武蔵野調理師専門学校卒業。
レストラン タテル ヨシノを経て、2010年より「deco」のシェフに就任。狩猟免許を取得。
2016年8月 LATURE(ラチュレ)を独立開業。
2016年12月 Gault&Millau(ゴーエーミヨ)にて明日のグランシェフ賞を受賞。
2017年11月 LATUREをオープンして1年3ヶ月後、ミシュランガイド東京2018にて1つ星を獲得。


LATURE ラチュレ
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷2丁目2-2 青山ルカビルB1
TEL:03-6450-5297

インターネット予約:予約はこちらから
ランチ:11:30~13:30(L.O) 15:00(close)
ディナー:18:00~20:30(L.O) 23:00(close)
定休日:日曜日(月に1度日曜も営業)
アクセス:JR渋谷駅中央口 ヒカリエ方面 徒歩7分、地下鉄表参道駅B1番出口 徒歩6分

ジェイソン・ウィンターズ・ティー