森澤 勇司さん(能楽師)インタビュー

能楽師 森澤 勇司さん

二〇一〇年に舞台出演中に脳梗塞で倒れ、入院。リハビリを経て「明治天皇生誕一五〇年記念能」などの大型イベントに多数出演したほか、大河ドラマ『秀吉』、映画『失楽園』にも出演された森澤さんに、能楽の起こりやブッダの時代から説かれていた“心が健康へ及ぼす作用”について伺いました。

能楽の起こりは天岩戸の天鈿女。

能楽の大成者である世阿弥が六五〇年前に記した『風姿花伝』によると、能楽のルーツとして天岩戸の物語、聖徳太子の逸話、釈迦の弟子が暴走を鎮めた三つのエピソードが語られています。例えば、古事記、日本書紀に登場する天岩戸の物語で、天鈿女が天岩戸から天照大神を誘い出すために舞ったのが能楽の起こりではないかと書かれています。

能楽のような日本の伝統芸能ではまだ世襲が主流ですが、私は世襲ではなく、父は会社員、実家は商店経営という家庭環境で育ちました。12歳の時に父親と死別し、新聞奨学生をして大学に通っていた私は未来に希望を持てず、危機感を抱き、将来何をすべきか思い悩んでいました。そんなある日、文楽劇場(操り人形浄瑠璃専門の劇場の名)のポスターを見かけて人形浄瑠璃に興味を持ちました。当時は携帯電話がなかったので、電話番号を暗記して家に帰って電話をしてみると、番号が間違っていました。そこで、今度は書くものを持ってそのポスターのところに行くと、能楽堂のポスターに入れ替わっていたのです。じゃあ、能楽もいいかなと(笑)。

そんなことを思っていたある日、夢を見ました。それは、様々な職業に向かう山道が続いている夢で、いくつもあるその道の多くには障害物があり、岩が道を阻んでいました。その中で障害物がなく、まっすぐな一本道の先に見えたのが能の舞台だったのです。「まっすぐな道ならば最後まで行けるかもしれない」と直感した私は、能楽の道に進んでみようと思い立ちました。そして、あらためてあのポスターを見ると、国立能楽堂の三役(能のワキ方、囃子方、狂言方の総称)養成の告知でした。三年に一度しかない募集で、この出会いに運命的なものを感じ、能楽修行に入ることになったのです。

舞台中の脳梗塞、三毒が身を滅ぼす。

修業を重ね、能楽師として舞台にも出られるようになり、一九九九年の「森澤勇司独立記念能」では高円宮憲仁親王にもご鑑賞を賜り、「よい舞台でした」とのお言葉を頂戴いたしました。しかし、能楽の世界に入ってから二十三年が経った二〇一〇年三月、舞台「楊貴妃」の出演中に脳梗塞のため倒れて集中治療室に運ばれてしまいました。その日はちょっとお腹の調子が悪いくらいの自覚はあったのですが、普段から体の不具合を感じることがまったくなかったので、本当に突然の出来事でした。

今から振り返ると、当時の私は周囲に対するストレスが重なり、不満を溜め込んでいたのが一番の要因かなとも思います。脳梗塞後のリハビリではメンタル面が一番苦労しました。考え方がすべてネガティブになってしまうのです。ブッダが「貪欲(強欲)、瞋恚(怒り)、愚痴の三毒が自分で作り出す最も強い毒である」と説いているように、心が身を蝕むことを実感させられました。

ようやく舞台復帰したものの、倒れる以前は舞台終わりに先輩からのダメ出しが多かったのですが、退院後は「今日の出来はどうでした?」と質問しても、先輩に「いいんじゃないの」と気遣われてしまって。きっと誰が見ても私は心を病んだままだったのでしょうね。この気遣いを感じて、いよいよヤバイなと(笑)。このままだと次の年に立つ舞台がなくなってしまうかもと思いました。それからは脳の勉強を開始し、向精神薬を薦められた際にも薬を拒否することにして、最終的には日本メンタルヘルス協会にてカウンセリングを学び、自らの力で克服したのです。

伝承とは語り合い、自分の持つエネルギーを伝えること。― 世阿弥の教えをヒントに。

私も最近では人を育てる立場になりました。世阿弥の『風姿花伝』の中で語られる人を育てるヒントを参考にしています。“伝承すべきはエネルギー”。自分のしてきた仕事を明文化したりマニュアル化したりして、再現性を持たせることで仕事の幅は広がります。しかし、そのような伝え方に違和感を抱くことがあるとしたら、それは技術だけを伝えてしまっているからです。共通の世界観を持てるまで語り合い、使っている言葉を一致させることが伝承のための第一歩になります。どんな人と時間を使うのか、打算ではなく本当に仲良くなりたいかどうか、相手に与えるエネルギーに集中できた時に、自分の仕事もうまくいくと記されておりました。六五〇年前から続く教えはすごいですね。

リハビリの一環で飲み始めたJWティーが周りを照らす光に。

JWティーはリハビリの一環で飲み始めました。初めて飲んだ時は飲みやすいと思いました。どれだけ飲んでも、体に吸い込まれるように入ってくる。お茶用のヤカンで濃く煮出して飲んでいます。少し気分が悪いなと思う時は、コーヒーぐらいの色の濃さにまで煮出して飲むようにしています。JWティーを飲み始めてからは様々なことに対して気づきが多くなるなど感覚が研ぎ澄まされたように感じています。

長い間暗闇の中で懐中電灯を照らして歩いていたのが、今では周りをすべて照らす電灯を点けたような感覚です。これからも、本番前の気持ちを落ち着ける時などに飲み続けたいですね。

森澤さんの本

能楽師 森澤 勇司さん
能楽師
森澤 勇司さん

1967年東京生まれ。能楽師、小鼓方。重要無形文化財「能楽」保持者(総合指定)、日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー。
テンプル大学日本校在学中に能楽を志し、1987年、能楽師に。2010年、舞台出演中に脳梗塞で倒れ、闘病生活の中で、コーチング、マーケティング、心理学を学ぶ。
現在、古典作品だけで舞台出演は1,000回を超え、「明治天皇生誕150周年記念能」など多数の能楽舞台に立つ。大河ドラマ『秀吉』、映画『失楽園』をはじめ、テレビドラマ、映画にも多数出演。

森澤勇司メールマガジン「和の心を磨く習慣」
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ジェイソン・ウィンターズ・ティー