1906年、東京師範学校に在学していた蓮沼門三氏を中心に創立された公益財団法人修養団。“愛と汗”の社会教育を行う団体として活動を続け、人材育成を通じて社会に貢献してきました。今回は、その修養団の「伊勢青少年研修センター」で所長を務める武田氏にお話しを伺いました。
“孟母三遷(もうぼさんせん)”、環境が人をつくる
環境によって人づくりをすることが大切だと語っていたのが修養団創設者の蓮沼門三(はすぬまもんぞう)先生。“孟母三遷(もうぼさんせん)”という言葉が示すように、幼児の教育には環境が大切であるという教えです。語源は、儒家として名高い孟子のエピソードからです。
孟子は幼い頃、墓地の近くに住んでいました。いつも葬式ごっこをして遊ぶ姿を見た孟子の母は、「ここはあの子が住むにはふさわしくない」と引っ越しました。そこは市場の近く。
孟子は商人のまねをして商売ごっこをして遊そびました。孟子の母は再び、「ここもあの子が住むにはよくない」と、今度は学校の近くに引っ越しました。
すると、孟子は、学生がやっている祭礼の儀式や、礼儀作法の真似事をして遊ぶようになったんです。「ここならあの子にぴったりね」と母は腰を落ち着けます。
やがて孟子は成長すると、六経を学び、後に儒家を代表する人物となったというお話です。
修養団の創立100周年の式典には、天皇皇后両陛下にご臨席を賜りました。私ども1 団体が陛下をお招きできるのは、先代の方々がご苦労し、よき働きをしていただいたからだと思っています。
私は以前、修養団伊勢道場の道場長を務めた中山靖雄先生が「修養団の最大の目的は何ですか?」と蓮沼門三先生に尋ねた際、「修養団がいらなくなる世の中を作ること」と一言お答えされたというお話を聞きました。それほどの信念を持って、日々の活動に取り組まれているのかと感じ入ったのを思い出します。
愛は、相(あい)に通ずる
今は、多くの若い人が伊勢神宮にいらっしゃいます。伊勢に来ると何が変わるかというと、あれだけ清らかな想いで参拝したんだからと生活が見直されてきます。中山先生も若い時は、ボロボロのジーンズで来る人に、「ちゃんとした格好をしろ」と思っていたそうです。
しかし、年齢を重ねたことで、様々な楽しみがある中でわざわざ選んで伊勢に来てくれたことに感動するようになったと仰っていました。人は、見た目とか言葉にとらわれがちですが、本当にその方が何を求めているのか、そういうところに心を合わせていかなければいけないと感じます。「愛は、相(あい)に通ずる」のかなと。働きに出ていてお子さんと一緒にいる時間の少ないお母さんも、その短い時間の中で寄り添って側にいることができれば、よい家庭環境づくりのきっかけになるのではないでしょうか。
私が伊勢神宮への想いを強くするのは、ここが天皇陛下の想いからできたお社(やしろ)だからです。陛下が国安(やす)かれと願う、そのことに尽きると思うんです。国と国民の幸せを、日々祈ってくださる。日々祈っていただいていることすら、私たちは気付かずに生きているわけですが、誰かがどこかで祈ってくださっていると気付いた時に果たすべき役割ができてくるんじゃないかなと思うわけです。果たすべき役割とは、祈られたら祈るということもありますし、いまできることを精一杯させていただくことがもう1つじゃないかなと思います。
神は、身の内にいらっしゃる
伊勢神宮の正宮(しょうぐう)には、3種の神器(鏡、勾玉、剣)の1つである鏡が置いてあります。天照大神様のご神体です。
かがみ(…)の、「か」というのは明るさ、「が」というのは暗さ、「み」というのは自分を表します。明るい部分、暗い部分があって自分になる。その中で、よく我(が)が強い人間は周りと調和しにくいと言われますよね。自分自身を映し出す鏡から、我をとると明るい自分の身だけになって、神になるわけです。まさに鏡に映して、自分のこれまでの行いを反省し、そして感謝して、決意をすると。自分を省みるのがお参りなのかなと思います。
また、「か」というのはもともと、「かっかっかっ」という燃える太陽を表す言葉です。お母さんは、太陽のように明るくて、なくてはならない存在。だから、お母さんと呼ぶんです。では、お父さんは何かと言うと、尊い存在。だからお父さんと呼ぶんです。そんな風に、お互いに尊敬し合うことで家族はあるんだと思います。
リーダーへ伝えたい3つのこと
修養団では、人が本来持つ明るい清浄な心をみがき出し、人間力を高めることを目的とした講習会を行っています。延べ13万人以上の方々にご参加いただいています。「生きるということは誰かにお世話になること、生きて行くということはそれをお返しすること」。この講習会には、「今まで全部を自分1 人で頑張ってきたよ」という人がたくさんいらっしゃるけども、それには多くの方が祈ってくださったり、見えないところで助けてくださっていたんだということに気付かされる場所じゃないかなと思います。
そのことに気付けたら周りの人にいっぱいお返しをしてほしいなと思います。「ありがとう」というのをどんどん発信していけば、必ず発信元にすべて「ありがとう」が返ってきますから、一番得をするのはご本人じゃないかなと思うんです。
経営者の方々から、社員の気持ちが分からないと言われることがあります。その際に、3つだけ守ってくださいと伝えています。それは、「会社をこうしたい」という部下が来たら、30分うなずくだけで否定しないで聞いてくださいと。そしたら、必ず変わります。
あとは、絶対に約束を反故(ほご)にしない。例えば、社員と飲みに行こうと言っていて、大切なお客様との用件ができたから、そっちを優先するというのは無しだとお伝えします。最後に、経営者自ら必ず時間を守る。これを徹底してできたら、会社の雰囲気は変わりますよと。
実際に、鹿児島県の砂利会社の社長さんが、月に1 回社員の意見を聞く時間を設けたところ、社員も言いたいことがなくなってきて、「社長のやりたいことは何ですか?」と聞かれるようになりました。そういうことを繰り返す中で、お互いの信頼関係が構築されたようです。
修養団とは
公益財団法人修養団は、1906年(明治39年)2月11日に、東京師範学校(現在の東京学芸大学)に在学中の蓮沼門三氏(1882~1980)を中心とする学生達によって創立され、2011年3月22日に内閣総理大臣より「公益財団法人」として認可をうけた社会教育団体です。人生の充実を願い、心を磨き、潤いのある家庭や地域社会、職場を作ろうとする人たちの集まりです。創立100周年にあたる記念式典では、天皇皇后両陛下のご臨席を賜りました。
〒516-0024 三重県伊勢市宇治今在家町153
TEL : 0596-25-0265
FAX : 0596-25-0309
e-mail : ise@syd.or.jp
1958年福島県生まれ。
1980年淑徳大学社会福祉学部社会福祉学科卒業後、同年修養団に勤務。1981年より、伊勢青少年研修センターにおいて、各講習会・研修会に従事。
1991年日韓学術文化青少年交流派遣、1992年には日英青少年指導者セミナー派遣と国内外において、青少年を対象とした活動を幅広く行う。
現在は伊勢青少年研修センター所長を務める。