
栗田美術館は、創立者・栗田英男氏が情熱を注いで集めた伊萬里焼と鍋島焼を中心に展示する、世界最大級の陶磁器美術館。江戸の磁器が欧州の王侯貴族も魅了した歴史や、フレディ・マーキュリー氏来館の思い出など、数々のエピソードが息づいています。現館長・栗田俊英さんに、美術館への想いとともに、愛飲しているJWティーについてもお話を伺いました。
世界最大級の陶磁器コレクション
栗田美術館は、私の父・栗田英男が創立した美術館です。「伊萬里焼」「鍋島焼」を中心に収蔵し、その規模は世界最大級とも称されています。はじまりは、父が蒐集(しゅうしゅう)した陶磁器コレクションを東京の自宅を改築して一般公開したことでしたが、昭和50年(1975年)、栃木県足利市の約3万坪に及ぶ広大な敷地に大小20余の施設を建設し、本格的に美術館を開館しました。父が陶磁器に出会ったのは昭和8年(1933年)。近所の骨董店で偶然手に取った伊萬里焼の徳利(とっくり)がきっかけでした。当時は伊萬里焼と知ることもなく、ただ強く惹かれて購入したそうですが、その後調べるうちに、伊萬里焼が海外にも盛んに輸出され、多様な魅力を持つことを知り、少しずつ蒐集を始めたのです。美術館のために集めたのではなく、純粋な関心と好奇心から始まったものでした。その徳利は今も美術館入口に飾られており、「栗田美術館の原点」と呼ぶにふさわしい存在です。
父はもともと、栃木県足利市の豪商の家に生まれ、戦後は「人の役に立ちたい」と政治家を志しました。1947年の総選挙で衆議院議員に初当選し、迫力ある言動から、故・田中角栄氏を呼び捨てにできる数少ない人物とも評されました。政治家としての将来を歩み続けていれば大臣の地位も得られたかもしれません。しかし父は「文化財は国家国民の貴重なる財産であり、個人の所有物ではない」という強い信念から、財団法人を設立し、美術館という形で後世に残す道を選んだのです。
江戸の伊萬里焼が欧州の王侯貴族も魅了
この美術館は、開館以来、個性豊かでありながら芸術の神髄に迫る場として、陶磁器を愛する世界中の人々から高い評価を受けてきました。とりわけ大きな特色は、父自らが集め、設計した展示室に「伊萬里焼」と「鍋島焼」だけを飾っている点にあります。父はこの二つの作品以外には目を向けず、他の美術館とは一線を画した独自の世界観を築き上げました。
伊萬里焼は、江戸時代初期、肥前(現在の佐賀県有田町)で誕生した磁器です。日本で磁器が焼かれるようになった背景には、「文禄・慶長の役」で朝鮮から渡来した陶工たちの技術があります。中でも、李参平(りさんぺい)という陶工が有田の泉山で白磁の原料となる陶石を発見したことが、日本の磁器生産の大きな転機となったと伝えられています。初期の伊萬里焼は、白磁に呉須(青い顔料)で描かれた素朴な染付が特徴でした。その後、中国・景徳鎮の影響を受けて色絵や金襴手(きんらんで)が生まれ、華やかな赤・青・金彩の組合わせはヨーロッパの王侯貴族を魅了。東インド会社を通じて大量に輸出され、オランダやドイツの宮殿・城館には今も伊萬里焼の大皿や壺が誇らしげに飾られています。
一方、鍋島焼は鍋島藩の「御用品(ごようひん)」として特別に生産された磁器で、日本の磁器の最高峰に位置づけられています。有田町近郊の大川内山(おおかわちやま)で1670年代に開窯され、伊萬里焼とは異なる独自の形式美を持つ精緻な作品を生み出しました。鍋島焼の多くは食器類で、一尺(約30cm)、七寸(約21cm)、五寸(約15cm)といった円形や木盃形(もくはいがた)の皿が中心です。純日本的な意匠が表現され、市販を目的とせず、専ら将軍家への献上や藩主の贈答用に作られたと伝えられています。
フレディ・マーキュリー氏 陶磁器の世界に魅せられる
栗田美術館の歴史の中でも、特に忘れがたい出来事があります。世界的ロックバンド「クイーン(QUEEN)」のボーカル、故・フレディ・マーキュリー氏が訪れた日のことです。彼は美術品や日本文化への造詣が深く、日本を訪れるたびに骨董店や美術館に足を運んでいたと言われています。イギリスの自宅には日本庭園まで造ったほどでした。その縁で、ある大手芸能プロダクションの会長夫人が同行して来館しました。
私自身はその時、有田地方で窯焼きの修行中だったため立ち会えませんでしたが、父が案内役を務めました。フレディ氏は父に美術品を譲ってほしいと交渉し、父が「どれが欲しいの?」と尋ねると、「全部」と答えて父もひっくり返っちゃったそうです(笑)。父は「美術館で展示しているものだから売れない」と答えつつ、代わりにレプリカをお土産として渡しました。実はそのレプリカは、私が窯で焼いた壺だったのです。
2023年、フレディ氏の元恋人メアリーさんが高齢になったこともあり、遺品がオークションに出品されました。その中で私の壺には、なんと200万円もの値がついたそうです。購入者が誰であるかは分かりませんが、大切にしてもらえたら嬉しいですね。2018年にQUEENの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』が大ヒットした際には、栗田美術館にも多くのファンが訪れました。映画をきっかけに、家族や友人を連れ立って久しぶりに訪れた方々も多く、やはり本物の輝きは時代を超えて人々の心に残るのだと改めて感じました。
陶器で愉しむ味わい豊かなJWティー
私は子として、父が築いた美術館の空間の中で中学生から成長してきました。展示室に並ぶ器を眺めると、そこには父の想いや、かつて器を作った職人たちの息遣いまで感じられます。美術館を運営していると、父の姿を思い出すことがよくあります。蒐集の過程は決して容易ではなく、真贋を見極める厳しい眼や資金面での苦労もありました。それでも父は諦めず、美しいものを未来へと託そうとしました。私はその志を継ぐ者として、美術館を「次の世代にどう伝えるか」を常に考えています。器を前に、お茶でも飲みながら語り合う―そうした体験を通じて、文化は生き続けるのだと感じます。
最近、私がよく愛飲しているJWティーは、妻の音楽関係の先輩から紹介してもらいました。そのご縁もあり、当美術館の150名収容の講堂では、『別冊ハーバライン』に掲載された如月総健クリニック院長・白川太郎先生の講演会も開催したことがあります。ピアノも設置しているので、コンサートも開くことができます。JWティーは著名な方が飲んでいらっしゃったり、一流レストランでも取り扱いがあったりするので、私自身の健康管理にも期待しています(笑)。
これからの季節、秋の紅葉や冬の景色とともに庭園も美しく彩られます。クリスマスの装飾も行いますので、ぜひ展示物だけでなく庭も散策し、途中でカフェに立ち寄って、美味しいJWティーを陶器で味わいながら季節を感じていただければと思います。
栗田 俊英 さん
栃木県足利市にある栗田美術館の館長。創立者である栗田英男氏の長男として館を継ぎ、伊萬里・鍋島焼を中心とした陶磁器コレクションの保存と公開に力を注いでいる。父の情熱を受け継ぎつつ、国内外の研究者や来館者と交流を重ね、文化財としての陶磁器の魅力を次世代へ伝える活動を続けている。
【栗田美術館】
- 〒329-4217 栃木県足利市駒場町1542
- TEL:0284-91-1026
- 休館日:月曜(祝日の場合翌日)、年末年始
- 開館時間:9:30~17:00
- ※JR両毛線「あしかがフラワーパーク駅」より徒歩10分






