第11回

食を正そう⑤

これまで、過去4回にわたってライフスタイル革新の要である“食”についてお話してまいりました。今回は、食を正そうの最後を飾るテーマとして「減塩」を取り上げたいと思います。

減塩は本当に正しいのか?

医学界主導の下で、世の中は常に減塩が叫ばれております。以前の私も何の疑問も持たず、減塩を指導してきました。しかし、他の医師や栄養士に聞いても誰も理由を知りません。調べますと、昭和35年にL・K・ダール医師が提唱した食塩摂取量と高血圧を関連づける論文が減塩の始まりのようです。特に日本の東北地方の塩分摂取量と高血圧患者の多さが示され、塩分が悪者という仮説をたてました。しかし、後年この調査条件が不明確で科学的に正しいとは言えないと訂正されますが、ダール医師の「仮説」が「真実」と誤認されたまま現在に至っています。確かに減塩で高血圧が是正される方もいますが、2%程度とかなりの少数派です。それどころか、減塩による弊害がたくさんあることも分かってきました(下記表:ミネラル不足によって起こり得る問題)。

減塩の是非は賛否両論ありますが、賛否があるということは、どちらも正しく、どちらも間違えている証です。どちらも真理に到達していないからです。富士山を静岡側と山梨側から見た場合、どちらが表富士なのかという論争に似ています。このように、部分だけを取り上げて論じても意味がありません。もっとふつうに考えましょう。点滴は塩水ですが、理由は血液組成に合わせているからです。なぜ点滴は減塩しないのか? という問いに答えられる医者はおりませんし、いくら塩水を点滴しても高血圧にはならないことを経験的に全ての医者が知っています。また、真夏は大量発汗により健康に良い減塩が自動的にできるのですから、水だけ飲めと医学界は提唱すべきです。しかし、熱中症対策には「水分と塩分」を摂らねばなりません。理由は、減塩すると熱中症で死者が増えるからです。ですから医学界は真夏の減塩を推奨することができないのです。残念ながら、医学はその程度なのです。

天然塩と精製塩

この減塩による弊害はミネラル不足による代謝不良と考えられます。ただし、これは微量元素(ミネラル等)が豊富な「天然塩に限った」話です。簡単に申しますと塩味の主成分は塩化ナトリウムですが、天然塩にはこの塩化ナトリウムが85~95%(海水や製法によって異なります)で、残りの15~25%はほかのミネラルなのです。このあってないような微量元素がとても重要です。精製塩(塩化ナトリウム99%以上)のように塩化ナトリウム単体が多量に入れば、バランスが崩れるのは当然のことなのです。企業やお店が商品を安くするためには、この安い精製塩を使うのは当然の成り行きです。下手に外食したり、塩味の強いお菓子を食べれば食べるほど、ミネラルバランスを崩す精製塩を大量摂取する可能性があることを知っていただきたいのです。

私の家族における経験上の判断材料ですが、食後に強い口渇が起こった場合は精製塩や化学調味料が多量に使われたと判断しています。一例を挙げますと、たいていの回転寿司では激しい口渇が起こりますが、回転しない寿司店ではまず起こりません。試しに回転寿司のしょう油の代わりに、自宅からしょう油を持参して食べても強い口渇が起こったため、原因はしょう油ではなく酢飯に使われた塩であると判断しています。我々ほ乳類も起源をたどれば海洋生物だという説に当てはまるかのように、海水、羊水、血液はミネラル組成が皆そっくりであり、それを商品化したものが点滴(リンゲル液)やスポーツドリンク(スポーツではカロリー消費が激しく、多くの糖分が追加されているので要注意)です。ですから、原則として天然塩に限っては減塩ではなく、美味しい適塩が良いでしょう。

ミネラル不足によって起こり得る問題

  • 高血圧励起
  • 糖尿病悪化
  • 免疫能力ダウン
  • 心筋梗塞危険率アップ
  • 交感神経緊張、代謝ダウン
  • ガンの危険性アップ
脳神経外科専門医 田中佳先生 原稿執筆

脳神経外科専門医
田中 佳(たなか よしみ)先生

1960年、東京都生まれ。
1985年に東海大学医学部を卒業後、同大学附属病院脳神経外科助手を経て市中病院にて急性期医療に長年携わる。
日本脳神経外科科学会認定専門医として、脳神経外科診療を行いつつ、予防医学の教育講演活動に取り組む。