第10回

食を正そう④

第7回からライフスタイル革新の要である“食”についてお話させていただいております。今回は、最近耳にしたことがある方も増えてきた「トランス脂肪酸」についてお話させていただきます。

狂った油・トランス脂肪酸

消費者庁は2011年、食品事業者に対してトランス脂肪酸を含む脂質に関する情報を自主的に開示する取組を進めるよう要請することとしました。要請を受けた企業がどれだけかは分かりませんが、ホームページ上で公開している企業もございました。それよりも、商品に直接表示して欲しいですね。今更な話題ですが、このトランス脂肪酸は、欧米ではさまざまな病気の原因と考えられており、世間では「狂った油」とか、「食べるプラスチック」などと呼ばれています。それらが多く含まれる代表的な食品がマーガリンやファットスプレッド、ショートニングです(水素添加も同類)。これらを使うと、パンがいつまでもフワフワもちもちとなり、クッキーのサクサク感が向上し、長持ちもします。以前にコンビニで菓子パンを買って、半分食べて残りを元の袋に入れたまま放置してすっかり忘れてしまい、約2ヶ月後に突然思いだして棚から出してみますと、パンは知らない人にあげても食べられそうなほどにきれいでした。菌も食べられないのか? と思いました。このトランス脂肪酸が健康上問題だとされるのは、体に取り入れられると細胞膜の一部に使われてしまい、細胞の機能低下を引き起こすと考えられているからです。

トランス脂肪酸は細胞膜を変性させる

油にはトランス型とシス型という2つの型があり、天然に多く存在する形が「シス型」、人工物に多く存在する形が「トランス型」と呼ばれる異性体です。トランス型の問題は、一つ一つの細胞膜の表面にびっしり敷き詰められた脂質の一部に形の違う構造物が入り込むイメージです。例えば、レンガで家の壁をつくっているところへ、丸い石を入れてしまえば、壁には隙間ができてしまいます。断熱どころか、雨風も満足に防げない壁のように、細胞膜としての機能はおちてしまうでしょう。そんな細胞で60兆個ほど組み上げられた人体が劣化してしまうことも想像できるでしょう。トランス脂肪酸と病気の関連を世界ではどう捉えているかを示しますと、ガンやアレルギー、クローン病などは免疫システムの異常を、心臓病や脳卒中などは動脈硬化の悪化との関連性が強く言われているのです。これも、科学が生み出した人工物の問題と言えるでしょう。

では、トランス脂肪酸に対する世界の取り組みを見てみると、主要先進国はすでに表示義務や、使用制限などの規制が行なわれています。危機管理に対する意識の違いを単純化しますと、欧州:危険性があれば規制、米国:情報開示して決定は国民、日本:危険でなければ安全(健康被害が立証されるまでは安全)という国に皆さんはお住まいなのだという自覚を持って生活しましょう。電磁波基準など、日本はまだまだ規制の緩い事象がたくさんあるので、各自が勉強して対策を取らなければ健康を勝ち取ることは困難になるでしょう。

トランス脂肪酸+αと病気の関連性

  • 免疫能の低下 … かなり疑わしい
    よく風邪を引く、ガン(各種)、悪性リンパ腫の誘発
  • クローン病(小腸に潰瘍多発) … かなり濃厚
  • 花粉症、アトピー性皮膚炎 … かなり濃厚(アメリカ:ほぼ確定)
  • LDL(悪玉)コレステロールの増加とHDL(善玉)コレステロールの低下 … ほぼ確定
    動脈硬化(心疾患:ほぼ確定、脳卒中など)
  • 糖尿病の悪化 … かなり濃厚
  • その他 … 慢性関節炎、胆石、認知症など
脳神経外科専門医 田中佳先生 原稿執筆

脳神経外科専門医
田中 佳(たなか よしみ)先生

1960年、東京都生まれ。
1985年に東海大学医学部を卒業後、同大学附属病院脳神経外科助手を経て市中病院にて急性期医療に長年携わる。
日本脳神経外科科学会認定専門医として、脳神経外科診療を行いつつ、予防医学の教育講演活動に取り組む。